推敵する

自伝が書き上がったら折にふれて推敵しましょう。推敵というのは、何度も読み返して文章を練り直すということです。一項目なり、一章なりが書き上がったら、折にふれて読み返して、手を入れ直すということは大切です。
特に、吹き込みでつくった原稿などの場合は、念入りな推敵が大切です。読み返しているうちに、言い回しのおかしなところや、書き忘れたところがあるのに気がついたりします。多忙の場合などは、一度読み返しただけで、それで終わりにしてしまいますが、できれば、日にちをおいて再び目を通すと思わぬ発見があります。一度通読して、気になる部分を訂正すると、それで完全な原稿のように思えるのですが、日をおいて、再び読んでみると、最初読んだときには気がつかなかった欠点が目についたり、直したほうがよいと思われるところが出てくるものです。慣れた目で読むと、これで完壁と思える内容も、時間を経過して、新たな気分で目を 通すと、直したほうがよいと思われるところが自につきます。私のように、文章を書いて暮らしている者にとって、文章に慣れすぎてしまうという弊害があります。案外、自分の書いた文章に新鮮な気持ちを失っているものです。私はそのことを経験的に知っています。それで私は、最低でも一晩寝てから再び目を通すようにしています。一度眠りから覚めて原稿に向かい合うと、昨日見えなかった欠点が新しく見えるようになってきます。特別の事情がないのであれば、締切りを気にせず、気が向いたときに机に向かって、少しずつ書き進め、書き足し、折にふれて推敵をくり返していくととでよい作品になると思います。 執筆にしろ、テープ吹き込みにしろ、まず実行することが先決です。自分史のような仕事は、明日から始めよう、明日からにしようと考えがちで、なかなか実行できないものです。あまり大それた考えを持たずに、とにかく短い一部分を一編書いてみることをお勧めします。最初から大作に取り組むという意気込みはなかなか実現しにくいものです。
短編の一つ一つを仕上げるという気持ちで、一部分を書き上げてみてください。部分部分の短編を集録して一冊にしたのが自分史になると考えてください。その考え方で進めるということになれば、どこから書き出してもいいわけです。いきなり定年の日から書き出してもいいし、子供の結婚のことから始めてもいいことになります。『定年』という短編随筆を書くことが自分史執筆のスタートにしてもいいのです。あるいは印象深かった『ヨーロッパ旅行』『初孫の出産』『子供の大学入学』など、我が生涯の折々の思い出から書き始めてもいいのです。何も、歴史だからといって、先祖、両親、我が誕生の記:::と、時間の流れにこだわることはありません。どの時期
から書き出したにしろ、最後に、時系列に並べて編集すればそれが自分史になります。